テューバのためのアレクサンダー・テクニーク〜椅子に座ろう_中編

前回記事からの続き〜


さて突然ですが、私達のテューバの練習・演奏はどこから始まるのでしょうか?
マウスピースを口に当てた時?楽譜を譜面台に置いた時でしょうか?それとも「ウォームアップ」を一通り終えたら練習開始なのでしょうか?

多くの人が、楽器を構えてさあ音を出すぞという瞬間になって、「カチリ」と自分を切り替えるように意識を楽器とフォームに絞り込んで、「練習・演奏するモード」にいきなり入り込もうとしているように思います。
けれど、ほんの少し考えてもらえれば気づいて頂けるように、私達は音楽家であると同時に例えば会社員であったり、例えば親であったり、誰かの子供であったり、先生であったり先輩であったり、色々な姿を持った複雑な内面を備えた人間です。演奏する、練習に集中するということは自分をカチリと「音楽家のモード」に切り替えて押し込むということではないと思います。それに、そもそもそんな切り替え方が本当にできるのかは疑問です(もしかしたら、そういうことができる人が「天才」なのかもしれませんが。。。)。

昨日の久しぶりの友達との飲み会が最高に楽しかったからいつもより明るく元気に楽器に向かえるかもしれないし、月曜日に仕事でミスをしたので、まだ少し落ち込んで楽器に向かっているかもしれません。(何だか自分も身に覚えがあって、少しくすぐったい気分になりました苦笑)

逆に、楽器を持っていない時、ご飯を食べている時や仕事の休み時間、お風呂に入っている時にもちょっと楽器のことを考えたり、呼吸のアイデアが浮かんだりしたこともきっと何度もあるでしょう。

楽器がない時も私達のどこか一部は音楽家であるし、楽器がある時も私達の全身が純度100%の音楽家ということはないと思います。

もう少し見方を変えてみると、私達は同じ一人の人間でありながら自分の心と身体を音楽家として使ったり、会社員として使ったりしているのです。テューバを吹く時だけ、テューバ用の心が使えるわけではないし、テューバ用の身体が別に用意できるわけではありません。パソコンを使ったり、テレビを見たり、本を読んだりスマートフォンを眺めたり、そうして座っている時の座り方と楽器を吹く時の座り方はちゃんと繋がっています。

だから、楽器を吹こうと思った時に、カチリと楽器のモードに入るのではなくて、演奏にむけて自分に問いかける時間、そして自分が答える時間をちょっと確保してあげて欲しいのです。そうして自分の心と身体に問いかけながら自分の演奏を、自分自身と一緒にじっくり探求するところから始めて欲しいのです。

思い切ってアレクサンダー・テクニークの用語を使って言い換えると、「習慣」("Habit")でいきなり練習するのではなくて、自分の決意や決心、望みや情熱の声に耳を傾けてから練習を始めて欲しいのです。ちょっと大袈裟に聞こえるかもしれません。でも、あなたの毎日の練習は一つずつ積み上げられて、確実にあなたの演奏の方向と質を決めていくのです。練習はあなたの夢に一歩ずつ近づいていく本当に大切なプロセスなのです。そのために、例えば「座る」動きの中にさえも自分を観察して気づきを得るフィールドを広げてみてほしいのです。

(前置きが続きましたが、次回記事ではいよいよ「座る」のプランを探求してみましょう)

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